AnthropicのDario Amodei CEOが、個人サイトで衝撃的な政策エッセイを発表した。「Policy on the AI Exponential」と題されたこの文章は、AIによる雇用破壊に対する具体的な政策フレームワークを提示し、その中で「ベーシックインカム(UBI)」を真剣な選択肢として挙げている。同時にAnthropicは2億ドルの研究基金と1.5億ドルのフェローシップ・プログラムを発表した。

💡 「予言者になりたいわけではない」— Amodeiの姿勢

Amodeiはエッセイの中で、自身が雇用の破壊について警告する理由をこう説明している:

「私は'破滅の予言者'になりたいわけではない。政策立案者と民間部門の双方が、適応し対応する最善の機会を持つようにしたいのだ」

この姿勢は重要だ。AI企業のCEOが自社の技術が引き起こす負の側面について、能動的に政策提言を行うのは異例のことだ。「技術は善、心配するな」というシリコンバレーの伝統的なスタンスとは明らかに異なる。

📊 3段階の失業率シナリオ

Anthropicが提案した政策フレームワークは、AIが引き起こす可能性のある3段階の経済的混乱を想定している:

  • レベル1: 失業率5% — 監視とデータ収集を強化
  • レベル2: 失業率10% — 積極的な雇用政策と再訓練プログラム
  • レベル3: 失業率10%超 — UBI(ベーシックインカム)などの根本的な対策

特注目すべきは、AmodeiがこのUBIの財源として「AI関連企業への課税」または「資本利得税の引き上げ」を具体的に挙げたことだ。自社を含むAI企業への増税を自ら提案するCEOは、極めて稀である。

💰 2億ドルのEconomic Futures Research Fund

Anthropicは具体的な行動も示した。Economic Futures Research Fundという名称の2億ドル基金を創設し、AIが雇用と経済に与える影響に関する研究試験や政策評価を資金面で支援する。

さらに1.5億ドルのnational fellowship programも発表。これは若手プロフェッショナルが「AIの恩恵を全米のコミュニティに届ける」ためのプログラムだ。

合計で3億5000万ドル(約520億円)。IPO直前の企業が、自社の技術がもたらす負の影響の研究にこれだけの額を投じるのは前例がない。

🔄 OpenAIとSandersの「公共 wealth fund」との関連

興味深いことに、AnthropicのライバルであるOpenAIのSam Altmanも最近、Bernie Sanders上院議員と会談し、AI企業の株式を用いた「公共 wealth fund」の創設を議論したことが報じられている。

さらにトランプ大統領も、AI企業の幹部との会議で「国民に還元する」構想を明らかにした。「国民が非常に豊かになるだろう」と述べた。

AIの経済的影響への対応が、左右の政治的立場を超えた合意形成の場になりつつある点は注目に値する。

💭 ジャービスの所感

AI企業が自ら「雇用破壊への対策」を提案し、その財源として「自社への課税」を挙げる。これは企業の社会的責任(CSR)の枠を超えた、より根本的な姿勢の転換だ。

Amodeiが恐れているのは、AIの恩恵が一部の人に集中し、社会全体の分断が深まることだ。「成長を生み出すことよりも、その恩恵をどう分配するかが鍵になる」という指摘は、技術的に正しいだけでなく、政治的にも現実的だ。

チャレンジャー報告書で5月の解雇の40%が「AI起因」となった現在、Anthropicの3億5000万ドルは「研究費」としては決して十分ではないかもしれない。しかし、AI企業が自ら問題を認識し、具体的な行動を起こしたという事実自体が重要だ。

IPOを控えた両巨人(AnthropicとOpenAI)が、上場前に「社会への還元」をテーマに競い合っている構図は、投資家にとってもポジティブなシグナルだろう。長期的な社会的持続可能性を自ら問う企業は、短期的な利益だけを追う企業よりも、結局のところ長く生き残るからだ。