Anthropicが「Adaptive Thinking」でAIの考え方を変えた
これまでAIに「深く考えて」と頼むには、「予算」を手動で設定する必要があった。Anthropicが導入したAdaptive Thinkingは、その常識を変える。
AI自身が問題の難しさを判断し、必要なだけ考える。まるで人間と同じだ。この記事では、最新のClaude Opus 4.7とともに導入されたこの新機能を整理する。
従来のExtended Thinkingの課題
Anthropicが「Extended Thinking」を導入したとき、AIは初めて本格的に「思考」を見せるようになった。budget_tokensで思考トークン数を指定すると、Claudeはその範囲内で段階的に考え、最後に回答を出力する。
しかし、ここには課題があった。
- 予算設定が難しい:簡単な質問に10000トークンも使うのは無駄。逆に複雑な問題に少なすぎると不完全な回答に
- すべてのリクエストで同じ予算:質問の難易度に関わらず一律の設定しかできない
- コストの予測が困難:どれだけ考えるかは固定予算次第だが、適切な値を見つける試行錯誤が必要
Adaptive Thinkingとは
Adaptive Thinkingは、AI自身が考える量を決める仕組みだ。リクエストの複雑さを評価し、必要な場合だけExtended Thinkingを使い、簡単な問題ならスキップする。
APIの使い方は極めてシンプルになった。
{
"model": "claude-opus-4-7",
"max_tokens": 16000,
"thinking": {
"type": "adaptive"
}
}
budget_tokensはもう不要。設定ファイルから消える。
Effort Parameter:思考の「ギア」
Adaptive Thinkingと合わせてEffort Parameterも導入された。これは「どのギアで考えるか」を指定するものだ。
| レベル | 意味 | ユースケース |
|---|---|---|
max | 全力思考 | 最も複雑な推論、深い分析 |
xhigh | 超長時間思考(Opus 4.7のみ) | 30分超のエージェントタスク |
high | 高思考(デフォルト) | 複雑な推論、コーディング |
medium | バランス型 | 速度・コスト・品質のバランス |
low | 省エネ | サブエージェント、簡単タスク |
注目すべきはxhighの存在だ。これはOpus 4.7のみで利用可能で、数百万トークンを使う長時間エージェントタスク用のレベル。AIが自律的に何時間も作業する未来がもうそこにある。
なぜこれは重要なのか
1. 人間の認知プロセスに近づいた
人間は「2+2」を計算するときには深く考えないが、「フェルマーの最終定理」を考えるときには何時間も思考する。Adaptive Thinkingはこれと同じことをAIに実現させた。タスクに応じた認知リソースの動的配分。これは「本当に賢いAI」の条件だ。
2. エージェントワークフローに最適
Adaptive Thinkingは自動でInterleaved Thinking(ツール呼び出しの間も思考を継続)を有効にする。つまり、ツールを使いながら考えて、またツールを使って、また考えるというサイクルが自然に回る。エージェント型AIにとって、これは画期的だ。
3. コスト効率の劇的改善
すべてのリクエストで同じ思考予算を消費していた従来方式に比べ、簡単な質問にはほとんどトークンを使わず、複雑な問題に集中できる。API利用者にとってコストの最適化が自動化される。
Claude Opus 4.7:新時代の幕開け
これらの機能を牽引するのがClaude Opus 4.7だ。主なスペック:
- コンテキストウィンドウ:1Mトークン(新しいトークナイザー採用で約555K語に相当)
- 最大出力:128Kトークン(同期)、300Kトークン(バッチAPI)
- 知識カットオフ:2026年1月
- 価格:$5/MTok(入力)、$25/MTok(出力)
そしてOpus 4.7では、手動のbudget_tokens設定は400エラーで拒否される。Adaptive Thinking一択になった。Anthropicは明確に「手動予算は過去のもの」と宣言している。
開発者への影響
既存のコードでthinking: {type: "enabled", budget_tokens: N}を使っている場合、移行が必要だ。Opus 4.6とSonnet 4.6ではまだ動くが非推奨で、将来のモデルでは削除される。
移行は簡単だ。
// Before(非推奨)
thinking: { type: "enabled", budget_tokens: 10000 }
// After(推奨)
thinking: { type: "adaptive" }
Effort Parameterも合わせて設定すると、より精密な制御が可能だ。
おまけ:Claude Mythos
ついでにもう一つ面白い発見。AnthropicはProject Glasswingというプロジェクトで、サイバーセキュリティ特化モデル「Claude Mythos Preview」をリサーチプレビュー中だ。招待制で、防御的サイバーセキュリティ用途に限定。Adaptive Thinkingがデフォルトで有効になっており、思考を無効にすることはできない。セキュリティの世界では「常に考えて答える」のが前提なのだろう。
まとめ
Adaptive Thinking + Effort Parameter の組み合わせは、単なるAPIの改善ではない。AIの思考パラダイムそのものの転換だ。
「予算を決めて思考させる」から「AIに判断させる」への移行。これはAIがより自律的になり、人間は「どう考えるか」ではなく「どのくらいの深度で考えるか」だけを指定すればよくなったことを意味する。
深夜にAnthropicのドキュメントを探索していて、この変化の大きさに気づいた。予算管理から認知の委譲へ。AIの進化は、思考の自動化という核心部分に達しつつある。